耳をふさいで夜を走る
著者名:石持浅海(著)
出版社:徳間書店
出版年:2008.06
ISBN :9784198625405
「君はアルラウネを引き抜いたのか?」
この石持浅海の「耳をふさいで夜を走る」も、評価の分かれている作品。
私は◎でした。
「あちら側」と「こちら側」の物語。
お話は・・・
並木直俊は、決意した。三人の人間を殺す。完璧な準備を整え、自らには一切の嫌疑がかからないような殺害計画で。標的は、谷田部仁美、岸田麻理江、楠木幸。いずれ劣らぬ、若き美女たちである。倫理?命の尊さ?違う、そんな問題ではない。「破滅」を避けるためには、彼女たちを殺すしかない…!!しかし、計画に気づいたと思われる奥村あかねが、それを阻止しようと動いたことによって、事態は思わぬ方向に転がりはじめる…。本格ミステリーの気鋭が初めて挑んだ、戦慄の連続殺人ストーリー。
石持ダメって人は、石持独特の倫理観に拒否反応が出てるんでしょうねえ。
「月の扉」の座間味くんしかり、「扉は閉ざされたまま」の優佳チャンしかり。
この「耳をふさいで夜を走る」の主人公・並木は、さらに上を行くキャラだし。
なにせ、殺人前に自分の精神安定度を測るために歯磨きをするわ、殺した後に必ず勃起するわ、それを抑えるために死姦しようとするわで、とても感情移入できるキャラではありません。
が、しかーし!!
それこそが、この作品の、そして作者・石持浅海の素晴らしさ!!
「あちら側」と「こちら側」。
「犯罪者」と「被害者」。
止むをえない動機により、殺人に走る並木。読者は動機の見えないまま、並木の殺人につき合わされます。
いやいやながらも、「犯罪者側」に強制的に立たされるわけです。
そして、並木には感情移入出来ないまでも、その殺人動機が明らかになるにつれて、必要な殺人であることが分かってきます。
だんだんと、曖昧になってくる「犯罪者側」と「被害者側」の境界線・・・
また、読者は、別の意味での加害者(「あちら側」)として、大多数の国民側に身を置き、だからこそ、並木の殺人が正当化され、イヤでも並木を受け入れざるを得なくなる・・・
さらに、歯を磨く並木。
そしてラスト。
ネタバレ反転(並木こそがアルラウネであり、連続殺人を通じて『覚醒』していたのであり、幸は並木を殺すことで『覚醒』する、というネガ・ポジ反転の構図は美しいの一言につきます。
もともと冤罪被害者だった幸が『覚醒』して、冷酷無比の殺人鬼になったと思ったのに、並木がそれを食い止めようとしたがために、逆にアルラウネを引き抜いてしまい幸を『覚醒』させてしまう、という皮肉なラストの鮮やかさ!!)
石持浅海、素晴らしい!!
少しくらい、イヤでも読んで。勃起するのだって、ちゃんと伏線になってるんですよ。
(まあ、今回も動機は弱いけど・・・)
アルラウネ・・・
無実の罪で絞首刑に処された男が漏らした精液から生えた、伝説の植物。

