2007年11月29日

「探偵ガリレオ」東野圭吾

探偵ガリレオ

著者名:東野圭吾(著)
出版社:文藝春秋
出版年:2002.02
ISBN :9784167110079


「容疑者Xの献身」でも探偵役を務めた、物理学者湯川学が、バッサバッサと(?)謎を解いていく連作短編集。

10年くらい前のテレビドラマ「ブラックアウト」ほどSF寄りではなく、名作「怪奇大作戦」みたいに風刺が効いている訳でもなく、「トリック」ほど楽しくユーモアがあるわけでもない、というのが私の印象です。

物理学の知識を持った天才湯川学が、オカルトじみた事件の謎解きをして、さらに犯人らしき人物は数えるくらいしかいない、となれば、読者の私は、ハウダニット(いかにして犯行は行われたのか?)を、湯川が解くのを拝聴するしかありません。。。

しかし、その謎解きに関しては、手掛かりが示されていたとしても、文系の私の頭では解決までたどり着けそうに無いものばかりで、解決篇を読んで、へえ、そうなんですか・・・と、ただただ湯川先生のお話を伺うのみ。

そんな訳で、ドラマならそこのところビジュアルで見せてくれるのでいいかも知れませんが、活字だとイマイチです。
反対に、物理学的な部分が直接には謎解きに関係していない「容疑者Xの献身」の評価が高いのは皮肉のような気がします。
posted by たちばな ますみ at 09:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 国内作家・は行

2007年11月26日

「ヴィズ・ゼロ」福田和代

ヴィズ・ゼロ

著者名:福田和代(著)
出版社:青心社
出版年:2007.06
ISBN :9784878923364


目の前で、友人を斧で惨殺されるという衝撃的なシーンで幕を開ける福田和代のデビュー作「ヴィズ・ゼロ」

こなれてはいないけれど、男くささを感じる文体(登場人物は男ばかり!)や、ダブル・スパイ、北の某国などなど、ついつい昔の高村薫を思い出しながら読みました。
(高村薫に比べれば、文章はずっと上手いです)

キャリアの道を自ら断った甲斐、甲斐と学生時代に友人であったキャリアの出石警視正が、ハイジャック事件で、再び出会い、それぞれの過去と訣別すべく事件に臨んでいく。。。
冒頭の13年前の事件が、ストーリーに複雑に絡んでいく面白さなどは、デビュー作とは思えません。

甲斐と出石の再会シーンなどは、格好良すぎですが、いいです。
(やや過剰描写かも知れませんけど…)

とにかく一読の価値ありなので、福田和代という平凡すぎる著者名、読書意欲をそそらないタイトル(ヴィズ・ゼロ = 視程ゼロ≠フ意)、青いだけの表紙に負けず、読んでみて下さい。
あー、「神の火」読み返したくなってきた・・・
posted by たちばな ますみ at 08:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 国内作家・は行

2007年11月20日

「人間椅子」江戸川乱歩&ヤン・シュヴァンクマイエル【本日の短編・5】

人間椅子

著者名:江戸川乱歩(著)
ヤン・シュヴァンクマイエル(画)
出版社:エスクァイアマガジンジャパン
出版年:2007.09
ISBN :9784872951110


江戸川乱歩を、【本日の短編】に取り上げようと思ったものの、一作だけと決めているので、どの作品を取り上げるべきか?? ずいぶん迷ってしまいました・・・

まず初めに浮かんだ、横溝正史も絶賛していた「陰獣」や、実際近年起こったあるネットがらみの犯罪の遠因にもなったと(私には)思われる「パノラマ島奇談」(世界一美しく、官能的な絞殺シーン!!)は、短めの長編(中編)だし、前半と後半がチグハグで物語の構成は破綻してるけど、とにかく面白い「孤島の鬼」はもろに長編。「芋虫」の鮮烈さや、「鏡地獄」の不思議な味も捨てがたいし、どれにしようか・・・と、思っていたら、素晴らしい本を見つけました。

主演の藤井隆と第一話ゲストの乙葉の結婚と第七話「地獄の道化師」での石川梨華の真っ赤な猿轡(さるぐつわ)姿くらいしか見所のなかった(ウソです、ゴメンナサイ。ほとんど観てませんでした…)日本テレビの「乱歩R」の第一話にも取り上げられた、乱歩のあまりにも有名な短編「人間椅子」に、チェコのシュルレアリズムの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルが、画を描いたという奇蹟のようなコラボレーション本が、今回取り上げる一冊、「人間椅子」です。

「人間椅子」と言えば、最近も、宮地真緒、小沢真珠主演で、「エロチック乱歩 人間椅子」のタイトルで映画化されたり、古くはカルト映画監督石井輝男の大傑作映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」での小池朝雄の怪演(大爆笑!!)などが思い出されるわけですが、シュヴァンクマイエルの画は、表紙を見ていただければお分かりの通り、今までのどんな映像化作品にも引けをとらないと思われるくらいのインパクトがあります。

実際に本を手に取って観ていただけると分かるのですが、ボタンや本物の(何かの)毛のようなものを貼り付けていたりして、本来は印刷されたものではなく、シュヴァンクマイエル言うところの触覚的≠ネ触ってみるべき画≠ネのです。
気持ち悪いです、ハッキリ言って!

しかし、これこそが、「人間椅子」という、変体チックな乱歩趣味の爆発小説のアクの強さにも負けず、対等にわたりあえるシュヴァンクマイエルの描く「人間椅子」なわけです。

さらには、アニメーション作家でもあるシュヴァンクマイエルらしく、この「人間椅子」は動きます。
気持ち悪いです、ハッキリ言って!!

どう動くのかは、皆さんの眼で、触覚で、確かめてみて下さいね。。。
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2007年11月17日

「収穫祭」西澤保彦

収穫祭

著者名:西澤保彦(著)
出版社:幻冬舎
出版年:2007.07
ISBN :9784344013483


猟奇的な大量虐殺が行われる第一部が、とにかく、いい。

村の北西区の村民が、ほとんど殺害され、主人公の中学生たちの家族も、例外なく殺されてしまうのですが、吹き荒れる殺人という暴力と、台風による暴風雨という非日常的な極限状況の中で、主人公のブキは、自分の母親の遺体に対してまで、性欲を感じてしまう。
暴力に対する欲望≠ニ性に対する欲望≠ニいう人間の持つ大きな二つの欲望≠見事に描いています。

次々と、身内や顔見知りの人間の死≠ノ直面し、親友さえも失い、平常心を無くしていく様子は、臨場感たっぷりで、この第一部だけで終わってくれてもいい、とさえ思うくらいでした。

一応、お話はこんなです・・・

1982年、8月17日、夜。暴風雨の首尾木(おしき)村・北西区で、ほとんどの村民が虐殺される大量殺人の発生が警察に伝えられる。しかし悪天候と現場に通じる2脚の橋が流れたため地区は孤立、警察の到着は翌日になってからだった。かろうじて生き延びたのは中学3年の少年少女3人と彼らが通う分校の教諭ひとり。被害者は、3人の家族ら14名で、そのうち11人が鎌で喉を掻き切られていた。不明な点もあったが、犯人は、事件当日、逃走後に事故死した英会話教室の外国人講師と断定された―。そして9年後、ひとりのフリーライターが生き残った者たちへの取材を開始するや、ふたたび猟奇的な殺人事件が起こる。凶器はまたもや鎌だった…。著者渾身の1944枚、傑作『依存』を超えた書き下ろし長篇ミステリ。
(「BOOK」データベースより)

しかし、1944枚は長すぎでしょ? 第二部、第三部が長すぎ!!
第一部の中の伏線の張り方は素晴らしいし、あれだけの村民を虐殺しなければならない動機が弱いことを除けば、解決篇も素晴らしいだけに、もう少し短くしてくれて緊張感をもったまま解決篇まで持っていってくれてたら・・・という思いが強いです。
(第五部にしてもタイトルである収穫祭の本当の、意味(怖い!!)が分かる訳ですが、蛇足の感は拭えない気がします)


ところで、西澤保彦と言えば、神麻嗣子(かんおみ・つぎこ)シリーズ(能解匡緒ファンです)を途中まで読んでたくらいですが、イメージとしてはロジックで固めてくる本格派≠セったので、この「収穫祭」を読んで、印象が変わりました。。。
こっちの西澤保彦もいいな。
posted by たちばな ますみ at 10:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 国内作家・な行

2007年11月14日

「スカルプロック」クラーク・ハワード【本日の短編・4】

ホーン・マン

著者名:クラーク・ハワード(著)
山本光伸(訳)
出版社:光文社
出版年:1998.12
ISBN :9784334761059


クラーク・ハワードの物語は、泣けます。

昔、「EQ」という雑誌があった時、私が一番楽しみにしていて、毎号一番最初に読んで、毎回泣いていたのが、クラーク・ハワードの短編でした。

クラーク・ハワードという作家に馴染みのない方も多いと思いますので、短編集「ホーン・マン」木村仁良氏の解説を引用させていただきます。

ハワードの短編はパズル・ストーリーでもなく、サプライズ・エンディング・ストーリーでもなく、筋の展開や結末までほとんど予想できるストーリーなのだが、人物描写がしっかりしているので、じわっと感動を呼ぶペーソス豊かな人情噺というところだろうか。それに、暗い時事問題を扱いながらも、結末には一種の「救い」がある。

この「スカルプロック」もしかり。
18歳に満たない娼婦のリタと、麻薬のために亡くなった妹と一緒に住んでいた男に対して、あること≠するために街に出てきたインディアンのジョージとの交流を描いています。
それなりのツイストと、ラストではきっちりと泣かせてくれて、アメリカの浪花節とも呼ばれるハワードの作品の良さが十二分に楽しめる一編です。

また、「スカルプロック」ではインディアン、表題作「ホーンマン」では前科者、「老友モリー」では老人と、社会的弱者を主人公に据えることで、弱者故の、他者に対する優しさ、次第に通い合う、心と心の交流が胸に沁みてきます。

恥ずかしながら、今回、【本日の短編】に取り上げるにあたり、初めて、ハワードの短編が一冊にまとまっていると知りました。(しかも、世界で初めてらしい)

こんなに素晴らしい作品をまとめて読めるなんて、この上ない幸せです。もう、「EQ」のバックナンバーを探しに古本屋まわりもしなくていいんですよ。
(まあ「ホーン・マン」は古本屋か図書館を探さないとダメですが・・・)

是非、読んで、そして涙して下さい。
posted by たちばな ますみ at 11:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日の短編

2007年11月12日

「ホラー作家の棲む家」三津田信三

ホラー作家の棲む家

著者名:三津田信三(著)
出版社:講談社
出版年:2001.08
ISBN :9784061822009


三津田信三シリーズの一作目にして、三津田信三のデビュー作、「ホラー作家の棲む家」を読みました。

デビュー作に相応しく、怪奇小説に関する過剰なまでの偏愛ぶり(小説タイトルの羅列)や、横溝正史江戸川乱歩「赤い部屋」「陰獣」)に関してなどなど、その思いのすべてを詰め込んだような小説でした。

そういう部分を除けば、最初の一文から、メタ系の香りをプンプンさせつつ、作家三津田信三と、作中作「忌む家」が交互に語られる前半。
あまりにも登場人物が少ないため、ネタは割れてるようなものですが、それでも怪しげな津口十六人(つぐち・いざひと)を中心に、徐々に恐怖感を盛り上げていきます。

後半は、期待通りに、(ネタバレ反転)現実と「忌む家」の内容が、交じり始めて虚実の区別が無くなってきます。

それにしても、やっぱり後半クライマックスの追い詰められるシーンはとにかく恐いです・・・

(ネタバレ反転。「禍家」もネタバレ)複雑な構成にも関わらず、大枠の稜子=惟人≠ニいうのは、「禍家」の司命=詩美絵″\図と同じなので、すぐに分かってしまい少し残念。「禍家」と違って、稜子は女で、惟人は男っていう違いはあるけど。(稜子が男だと気づかないっていうのは、トリックとしては、ちょっと苦しいかな?)

ともあれ、デビュー作ならではの粗さはもちろんあるし、複雑な入れ子構造にはなっていますが、私はすごく楽しく読めました。
この作品と微妙にリンクしているノン・シリーズの「禍家」の方は、複雑さも少なく、かなりスッキリした印象。
どちらもオススメです。

禍家

著者名:三津田信三(著)
出版社:光文社
出版年:2007.07
ISBN :9784334742812

posted by たちばな ますみ at 07:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 三津田信三

2007年11月06日

「赤毛」アイザック・アシモフ【本日の短編・3】

黒後家蜘蛛の会 4

著者名:アイザック・アシモフ(著)
池央耿(訳)
出版社:東京創元社
出版年:1985.11
ISBN :9784488167059


「あなたは何をもってご自身の存在を正当となさいますか?」

「赤毛」は、ご存知アシモフによる「黒後家蜘蛛の会」の中の一編。

このシリーズは、黒後家蜘蛛の会という月1回、職業もまちまちな、男ばかり6人の集まる例会に、毎回男性ゲストが招かれ、ゲストから出された謎を、みんなで解決しようと知恵を絞るが、いつも解決するのは、給仕であるヘンリーだった・・・という安楽椅子探偵ものです。

お話は…
喧嘩別れをして、レストランに入っていった妻のヘレンを追って、ゲストであるアンダスンがレストラン中を探しますが、どこにも見当たらない。仕方なく家に帰ってみると、妻は先に帰っていて、自分は魔法を使ってピュッ……と帰ったと言い張る・・・という極めて単純なものです。

とにかく、私は、「黒後家蜘蛛の会」に限らず、この「赤毛」ほど、キュートで、チャーミングな話を、読んだことがありません。
今回、久しぶりに再読してみてラストでは、涙が出そうになりました。

また、密室ものとしても優れていて、機械トリックでなく、心理トリックであるところが素晴らしい!! 
(しかもこのトリックが、キュートなわけです)
ネタバレになるので、詳しくは書けませんが、「黄色い部屋の謎」が、あれだけ評価されているのに、何故、この「赤毛」が評価されないのかが分かりません・・・。

ミステリでありながら、悪意もなく、謎解きも美しく、ハッピーエンドなこんな小説もある≠ニいう意味でも、未読の方にはオススメします。
(本の値段が上っているので、立ち読みでもして下さいね。ちなみにヘレンは、藤原紀香のイメージかな?)
posted by たちばな ますみ at 11:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日の短編

2007年11月05日

「給水塔」恩田 陸【本日の短編・2】

象と耳鳴り

著者名:恩田陸(著)
出版社:祥伝社
出版年:2003.02
ISBN :9784396330903


【本日の短編】第2回目は、恩田陸「給水塔」。(「象と耳鳴り」祥伝社文庫所収)

「ほら、あれがその『人喰い給水塔』ですよ」
隣の男がのんびりと指差す方向を、関根多佳雄は見上げた。


本格ミステリ短編集「象と耳鳴り」は、「夜のピクニック」の回で、いいですよって紹介させてもらったんですが、とにかく私はこの「給水塔」という短編が好きなので、取り上げました。

探偵役は、「六番目の小夜子」関根秋の父親である関根多佳雄

「象と耳鳴り」は本格ミステリ中心ですが、この「給水塔」は、ホラー色のある短編です。

『人食い給水塔』の本題の前に、事件を語る時枝満との間に、水≠ノ関しての会話があります。
ここらへんが、恩田陸の雰囲気作りのうまいところですね。
満が多佳雄にこう言います。

「僕はね、人間が水を恐がるのは別の理由があるんだと思うんですよ。人類が誕生して、陸上生活を始めたものの、一時期水の中に戻った時代があるという説はご存知ですか? でも、現在こうして僕らは地上にいる。なぜか? ある日人類は水から上ったんだ。きっとね、水から急いで上らなければならないほど恐ろしいことが水の中で起きたんですよ。だから今でも水が恐い」
(P55−56・勝手に中略・後略)

本編には、直接は関係ないんですが、この部分が一番好きです。鳥肌が立ちました。。。

給水塔から転落死した主婦、行方不明になった小学生たちに関する謎解きと、前述の怪談調の部分の雰囲気作り、そして、いつもながらの結末のぼかし具合が、この「給水塔」においては、すべてプラスに働き、絶妙のバランスで、この作品を傑作にしています。
必読。
装丁の話です…
posted by たちばな ますみ at 07:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 本日の短編

2007年11月01日

「夕陽はかえる」霞 流一

夕陽はかえる

著者名:霞流一(著)
出版社:早川書房
出版年:2007.10
ISBN :9784152088611


霞流一「夕陽はかえる」は、本の帯にもあるように

不可能犯罪(ロックトルーム)×非情活劇(タランティーノ)×謀略(エスピオナージュ)

の一言で、言い尽くされます。

殺し屋が繰り広げる殺し合いの修羅場で殺人事件。
殺し屋の探偵が、殺し屋殺しの謎を巡り、殺し屋の容疑者を追及!

任侠推理か、マカロニ本格、それともパズル・ノワール?!

プロの暗殺組織〈影(えい)ジェンシー〉で実務を手掛ける〈影(えい)ジェント〉の一人、〈青い電光のアオガエル〉が不可能状況で殺された。明らかに同業者の手口。同僚の瀬見塚眠(せみづか・みん)は、〈カエル〉の遺族の依頼で真相を追う。だが、〈カエル〉の後釜を狙う〈影ジェント〉たちが瀬見塚に刃を向け、彼らの怪奇を尽くした決闘の応酬は〈東京戦争(トーキョー・ウォーズ)〉と呼ばれるほどに発展していく。殺し屋による殺し屋殺しと推理の行方は? 背徳のSin本格誕生!

本格ミステリ部分は、そこそこ面白かったんですが、やはりメインは、活劇部分。
とにかく、戦う、戦う!! ミステリ部分よりも、この〈影ジェント〉たちの戦いを楽しめるかどうか? がこの作品を楽しめるかどうか? です。
それがすべてです。
posted by たちばな ますみ at 07:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 国内作家・か行